「ユーザーの感情・行動を変えるための広告設計」について解説してきた本連載。
第1、2回の記事では、広告を設計するためには、ユーザーにどのような感情変化をもたらしたいのかをしっかりと設計してから広告手法の選定やキャンペーン設計を行っていくべきという内容をお伝えしてきました。
今回は、Webサイト・LPも含めて、Web上でのユーザー行動すべてを設計し、理想的なユーザー行動の変化を促していくための方法を明らかにします。
※本記事は、Markezine(マーケジン)掲載コラムを、Markezineの許可を得て転載しています。
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広告だけでは購買までユーザー行動は変化しない
当然ですが、広告はユーザーの感情を変える1つの要素でしかありません。特にダイレクトレスポンスを目的とした運用型広告であれば、「この広告が決め手で商品を買いました」ということも少ないでしょう。極端に言ってしまえばネット広告はブランドサイトやLPへの誘導口であり看板です。
いかに「この広告の先に私が求めているものがありそう」という期待感や「この広告ちょっと気になる」という興味喚起などの感情変化を促し、Webサイトや実店舗などのタッチポイントにどう橋渡しができるかが広告の役割です。
そのため、広告を設計するためには、広告を見る前後のユーザー行動やコミュニケーションの取り方も一緒に考えていかなくてはなりません。
しかし、これがなかなか難しいのも現状だと思います。ある一定の規模感になった企業であれば、マーケティング・販促を行う部署と制作・サイト改善を行う部署が分かれているケースが多いのではないでしょうか。
もし一緒の部署で行っていても、外注や運用委託先が違う会社ということも往々にしてあります。それにより、広告の設計とサイトの設計がちぐはぐになってしまいがちです。
ただ、「販促と制作の部署を統合し、代理店も1社に絞るべきだ」ということを伝えたいわけではありません。分かれているにはそれ相応の理由があり、その組織体系で最適化されているはずなのですから。
組織論などの話になると本筋からそれてしまうため、それはまた別の機会ででもお話しできればと思います。
今回は、広告とWebサイトの設計に1本の軸を通し、ユーザーの感情・行動を理想的に変えていくための考え方のツールを1つご紹介していきます。
ツールがあれば万事上手くいくわけではありませんが、マーケティングに関わる様々な人と、同じツール、同じ青写真をもとに議論を行っていくことで、きっと軸の通った全体設計になることでしょう。
全体の絵を描き、各タッチポイントの役割を明確にする
マーケティング全体を設計していくためのフレームワークや考え方は世の中に数多くあります。そのため本記事では、Web上でのタッチポイントに絞ってお話をさせていただきます。
とはいえ、いきなり「Webサイトをどう改善するか」「ネット広告で何を訴求するか」を考えるわけではありません。これは連載の第1、2回目でもお伝えした通りですね(過去連載は
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ターゲットとなるユーザーに対してどのような感情の変化を描かせるか、その上でどう行動をしてもらいたいのか。これは広告に限らず、マーケティング活動すべてで必要な要素となります。
では、具体的にどのようにして設計を行っていくべきなのでしょう。私がよく行うのは、
まずオフラインも含めたすべてのユーザー行動を洗い出し、その中でWebに関わる個所を深堀するという方法です。
上の図は「カスタマージャーニーマップ」としてユーザー体験のプロセスをまとめる手法で利用されるものの一部です。商品やブランドとどのように接点を持つか、それに合わせてユーザーが何を感じるのかを1本の線で記載していきます。
しかし、このジャーニーマップだけでは、具体的な「どう設計していくか」までは見えてこない。そこで、Webでの接点はもっと深く、細かなユーザータスク(具体的などんな操作・遷移をするか)を描きます。
このマップがあるからこそ、Webに触れる前にどんな情報がユーザーに蓄積され、そのとき何を感じているかが可視化できます。その前提のもとでWebでの設計に入っていきます。
次からは、この図を描く上で注意しなければならないポイントを解説します。
ユーザー行動とタスクフロー設計の守るべきルール
こういった形でフレームを使いユーザーの行動をまとめようとすると、精度を気にしすぎて、完璧なものを作りたくなってしまいがちです。しかし、想像で描く限り、100%描いた通りにユーザーが動くことはあり得ません。
描いたものをもとにして仮説立てをし、運用をしてみて「ここ、仮説と違ったね」「こういうパターンもあるよね」というように、変化させる、増やすことを前提に考えましょう。あくまでこの図は、チーム内での認識やユーザー感情の捉え方を一致させ、認識の差異が出ないようにするためのものです。
では適当に作っていいのかというと、それもまた違います。自分の想像する範囲で考えると、自分にとって都合のいい設計となってしまい実態とかけ離れてしまいがちです。ユーザーインタビューやリサーチデータを利用し、他のメンバーと議論をしながら組んでいく必要があります。
コミュニケーションを細かく分解し、感情を読む
マーケティングの全体像が見えてきたところで、Webでの設計に移っていきます。広告によって、誰にどのような感情をもってサイトに訪問してもらうか、そのための広告手法はどのように設計すればよいかは、
第1、
第2回で「ダイアグラムで描く感情設計」としてお伝えしてきました。
ですので、今回はサイトに訪れた後の設計をしていきます。イメージしやすいよう、「転職サイト」を例にタスクフローを書いてみました。
ユーザーがオンライン上でサービスと接点をもってから、Webでのコンバージョンに至るまでに何をするか、どんなページを辿りどんな操作をするのかを一連の流れで書きだします。これがユーザーのタスクフローです。
しかし、このタスクフロー通りに進んでくれるユーザーはかなり少ないと思います。大切なのは、これをスタートからゴールまで100%想像通りに進んでもらうためのものではないと認識すること。そして、1つひとつのフローの矢印の歩留まりを減らすために改善することなのです。各タスクでの離脱が少なくなれば、おのずと成約数は伸びていきます。
そのために、理想通りに進んでくれる人は「なぜ進んでくれるのか」、歩留まりや離脱が起きてしまう人は「なぜ進んでくれないのか」をユーザーの言葉で書き、進んでくれない人をどうやって進ませるのかを施策として考えていくのです。
感情変化を促すコミュニケーション設計
ユーザーのタスクをもとに、タスクを進める人、進めない人の感情をすべて書き上げたところで、具体的に何をしていくのかの話に入っていきます。
対策の方法は2つ。
1つは歩留まりする可能性の高いユーザーが次のタスクへ進むよう、コミュニケーション・コンテンツを変えること。もう1つは歩留まりしてしまった人の理由を想定し、適切なコミュニケーションで再訪を促すことです。
なぜタスクフローを進まず離脱してしまうのか。その「なぜ」をもとに対策を考えていきましょう。次のタスクフローに導くためにできることは大きく分けて2つあります。それは、離脱してしまう原因を解消すること、もしくは違うタスクフローを提示することです。
上の図のように、1つの「なぜ」に対して複数の対策が考えられます。理想的なタスクフローを進ませるか、違うルートのタスクフローを提示するか、はたまたユーザーのゴール地点を変えさせるか(この例であれば、応募からスカウト待ち)。
こういった「なぜ」に対する施策が複数出てきたところで、A/Bテストなどを利用し、想定される次のユーザータスクへの誘導率を上げていきましょう。
ただ、むやみやたらとA/Bテストをするのではありません。常に「ユーザーは××という理由でタスクを進めないかもしれない。その仮説があっているか、〇〇をすることで確かめよう」という、ユーザー像、A/Bテストで求めるゴール(成約地点)、施策によって確かめるユーザー感情をセットで考えていくことで、より感情変化を促しやすいサービスに変わっていくはずです。
前段では、主にサイト設計やサイト改善的な手法でしたが、さらに広告による施策も考えていきましょう。サイト訪問後のユーザーにアプローチとなると、皆さんご存知かと思いますがリマーケティング広告一択です。
考え方は前段とほぼ同じ。「なぜタスクフローを進まなかったのか」の理由に対して、そう感じているユーザー群をリスト化し、「タスクフローを進まなかった理由を解消するためのクリエイティブ」「理由をあえて強みに見せるクリエイティブ」などを用意して感情変化を促していきましょう。
ツールや手段ではなく、ユーザー感情を大切に
最近では、業界の違いや規模の大小問わず、マーケティングオートメーションを導入して同様の設計を行っている企業も多いかと思います。パブリックDMPを活用し、デモグラフィックデータも掛け合わせてコミュニケーション方法を変えている企業もいらっしゃるでしょう。
これらのテクノロジーやツール、手段は違えど、大切なことはユーザー感情を設計することです。
ユーザーの感情が変わらなかったとき、つまり「タスクフローを進まなかった」ときなぜそうなってしまったのか、どうコミュニケーションを取ればユーザーの感情を変えられるのか。その思考こそがユーザー感情・行動の設計につながるのです。
また、今回の話を実践する際、多くの部署や人を巻き込まないといけない必要が出てくるため、なかなか難易度が高くなると思います。まずはワークショップやラフな会議体を設けて、少しずつ「マーケティングに関わる社員全体で1つの青写真を持とう」という雰囲気作り、合意形成から始めることが必要です。