「ダイアグラムで描く、ユーザーの感情・行動を変える広告設計」
連載の第1回では、ユーザーの感情・行動を変えるための広告設計について、ダイアグラムで表現する方法をお伝えしました。
今回は、広告の自動最適化では賄いきれない「ユーザー感情の変化を仮説立て、適切に利用や購入まで至らせるまでの道筋を考えること」「ユーザーとのコミュニケーションを設計すること」について、具体的な広告設計の方法を3つのポイントにまとめて解説していきます。
※本記事は、Markezine(マーケジン)掲載コラムを、Markezineの許可を得て転載しています。
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ユーザー感情を中心とした広告設計とは
第1回では、「自動最適化の効果を高めるダイアグラム設計」というテーマで、ユーザーをコンバージョンに導くための「サービス・ブランドの理解度」と「緊急度・利用ニーズ」の2軸で描く感情変化のダイアグラムをご紹介しました。
広告設計の最初にユーザー感情を設計しておくことで、マーケティング活動全体を可視化し、目指すべき感情変化と広告手法ごとにやるべきこと、が見えてきます。
マーケティング活動の全体像を感情によって可視化した後は、それぞれの感情の変化を表す矢印について、コンバージョンに至らせるための最適な方法を考える必要があります。
・どのような広告手法を使用するのか?
・どのようなサイト・ターゲットに広告を表示させるのか?
・どのようなクリエイティブでユーザーとのコミュニケーションをとるのか?
上記の観点から広告設計を行います。
ここでポイントとなるのは、決して、広告手法の選定から広告設計をしてはいけないということです。「競合が行っているからDSPを始めよう」「まずは検索連動型広告を運用しよう」「流行っているからInstagramを使おう」など、広告手法から入ってしまうと、ユーザーとの最適なコミュニケーションがおざなりになってしまいがちになるからです。
ユーザーの感情をAからBに変化させるための情報を伝えることにより、ユーザーの行動が変わりコンバージョンに導かれるという、広告としての本質を見失わないようにしていくことが大切なのです。
感情を変化させるスイッチは3つのバロメーターから
広告とは、本来ユーザーが辿り着くはずのない未来に対して、情報によって最適な方向に導くことだと、私自身は考えています。その最適な方向の先にビジネスとしての成果地点(コンバージョン)が存在します。
それを導く道筋がダイアグラムです。ユーザーの現在の感情に応じて導き方は変わってきますが、どの感情変化においても共通する3つのバロメーターが存在します。
1.「したい!」という欲望や憧れ
2.「しなきゃ!」という焦りや緊急感
3.「できそう!」というハードルの軽減
この3つのバロメーターをわかりやすく図式化するとこのようになります。
ユーザーの「うらやましい」「欲しい」といった良い状態を認識し、その欲求を感じてもらう。あるいは、「このままだとダメだ」「今ってこんなに悪いんだ」という悪い状況を認識し、それを普通に戻したいという欲求を感じてもらう。
そして、その2つの欲求を叶えるハードルは低いことを認識してもらう。
この3つの感情バロメーターを広告によって変化させ、その感情バロメーターと紐づく商品ブランドの認知を向上させることにより、それぞれのタイミングでユーザーが商品を想起し、購入し、利用する確度が上がっていくのです。
ブランドの想起率を上げるために行う広告では、広告内で感情の変化を促さず、感情変化のバロメーターが日常生活の中で上がった際に、いかに想起してもらうか/手にとってもらうかを目的としているケースが多くあります。
これは商品認知をさせる時だけでなく、ユーザーが他の競合商品と比較をした時にも、「この値段なら手に入れられる」という価格に対するハードル軽減や「他の商品よりも、私がやりたいことが実現しそう!」という欲求が、競合に勝つために必要な感情になります。
競合商品よりもこの3つのバロメーターを高く感じさせることができれば、選んでもらえる可能性はぐっと向上します。
もちろん、広告だけの話ではありません。ユーザー訪問後のLPやWebサイトコンテンツなど、広告接触後のタッチポイントで、この3つのバロメーターをどのように変化させられるのかが、ユーザーとのコミュニケーション設計において大切になってくるポイントです。
自動最適化に任せるところ、自分の手で設計するところ
広告を出稿するにあたり、売りたい商品やサービス、それを紹介するためのWebサイトは必ず存在しますよね。そういった商品やサービス、Webサイトを開発制作する中で、「ペルソナ」を立てて進めていく手法が一般的になってきています。
その延長線上として「広告のターゲティングは、綿密にしたほうがいい」という考えを持たれている広告担当者は少なからずいらっしゃると思います。ディスプレイ広告であれば、細かなターゲティングごとの広告グループ設計、検索連動型広告であれば、1キーワード・1広告グループのようなキャンペーン設計などですね。
しかし、感情を変化させることを広告の目的として考えるのであれば、そこまで綿密なターゲティング設計は必要無いのでは、と私は考えています。
年齢や趣味嗜好、検索クエリなどが多少違っていても、ユーザーの現在抱えている感情が同じであれば、広告を出す側が狙った感情に変化させるための必要な情報には大きく違いはありません。
先ほど紹介した3つのバロメーターに照らし合わせると、以下のようになります。
1.「したい!」:ユーザーが描く理想像
2.「しなきゃ!」:現在ユーザーが抱える課題・悩み、それを課題に感じる背景
3.「できそう!」:ユーザーが理想像に近づけない理由・ハードル
この3点が共通したユーザーであれば、比較的同じ訴求方法で高い広告効果を得られます。
「広告を届けたいユーザーがどんな人なのか」よりも「ユーザーの感情をAからBへ変化させたいからAを感じているユーザー群にBを感じやすいシチュエーションで広告配信を行う」という思考でターゲティングを設計すると、配信母数、効率、クリエイティブの考えやすさなどの点で成功しやすくなります。
細かなターゲティング設計による弊害
前項目で「細かなペルソナからターゲティング設計するより、感情をもとにターゲティングしたほうが良い」とお伝えしました。それには「細かなターゲティングによる弊害」が存在することも大きな理由です。
その理由の一例は以下の通りです。
・広告システムの自動最適化が利きにくい
・広告impが少なくなりやすいので、一定のコンバージョン数から増加しづらい
・クリエイティブの最適化や効果検証がしづらい
主要な運用型広告サービスは、広告配信における様々な因子によって、効果の良いユーザーや配信面、時間帯、曜日などに自動で広告配信を強める機能を持っています。
しかし広告担当者の綿密な仮説に基づき、細かなターゲティングをしてしまうと、運用型広告の自動最適機能が「何をどのように最適化すれば良いか」を学習するためのデータが貯まりづらく、機能の有効活用ができないケースが多々あります。
また、広告の自動最適化については、「統計的な有意差をもって広告効果の良し悪しを測る」ことで成り立っているため、細かくターゲティングしすぎてしまうことにより、有意差を測るためのサンプル数が足りず、「この広告はデータが貯まらない悪い広告」だと認識されることも多くあります。
自動最適機能には、得意としている「データをもとに、最適なユーザーを選定し配信を最適化していく」ことは任せてしまい、そのユーザーの感情を変えることに広告担当者は注力をしていくべきなのです。
感情を変えるクリエイティブとは
ここまで、「ユーザー感情をどう変化をさせるのか、変化させるためのポイントは何か」ということを軸にお伝えしてきました。
ここからは「どのようなメッセージでユーザーの感情を変えていけばいいの?」の疑問にお答えするべく、クリエイティブの根幹となる訴求メッセージについて具体的な話をしていきます。
「感情を変えるクリエイティブ」の訴求軸のために考えなければいけないことは「今ユーザーが抱えている感情」「広告によって変えたい感情」「変えるために上げるべきバロメーター」「それを実現するための訴求」の4つです。
ただ、「今ユーザーが抱えている感情」と言っても、際限なく考える必要はありません。先ほどからお伝えしている「ユーザーが描く理想像」「ユーザーが抱える課題・悩み」「ユーザーが理想像に近づけない理由」の3つのバロメーターから考えていきましょう。
上の図のように、それぞれの感情に対して、それぞれ異なったアプローチをすることにより、「したい!」「しなきゃ!」「できる!」のバロメーターが上がり、商品購入を検討する感情に変わっていきます。
例として、転職サイトで考えてみましょう。
「転職をしたい!」「転職しなきゃ!」「転職できそう!」そう言った感情を引き出すために、まずは「どんな時、どんな人がそのように感じるだろうか」から考えていく必要があります。
たとえば「転職しなきゃ!」の場合は下記のような感情を想定します。
・今の会社では、やりたいことが実現できないと察した時
・同年代の知人より給料や待遇が悪いと知った時
・残業が多く、プライベートな時間を過ごせない時
こういった感情の想定は、実際に顧客になり得るユーザーにヒアリングをしたり、Twitterなどで「転職」と検索してユーザーが何を感じているかを読んだりすることで、想定をすることが必要です。広告担当者の思考だけで感情を想定してはいけません。
そこに対して、「言い当てる」「同じシチュエーションを感じさせる」ことができる訴求を考えていくと、ユーザーの感情が動くクリエイティブになっていきます。
このように「どんな感情の人に何を感じてほしいか」を広告クリエイティブの制作前に考えることができなければ、商品の良や特徴だけを伝える広告となってしまい、「必要な人には買われるけど、今必要じゃない人には一切響かない」広告となってしまいます。
動線すべてでユーザー感情を変えていく
連載の1回目でもお伝えした通り、ユーザーは感情変化の連続によってコンバージョンまでの行動が変わってきます。
今回お話ししたことは、広告でどうユーザー感情を変えるかだけであり、その後のLP訪問やサイト内回遊、離脱後のリターゲティングまで、すべてのユーザー行動に対して適切なコミュニケーションをとっていかなければ、コンバージョンには至りません。
次回の記事では、サイト訪問後のユーザーコミュニケーションやリターゲティング設計など、広告経由でサイト訪問した後の感情変化についてお話しさせていただきます。